次世代の会員ロイヤルティは「感情」から始まる
長年、フィットネスやウェルネスにおける会員ロイヤルティは、キーフォブやチェックインの数で測られてきました。会員が継続的に来館すれば「ロイヤルティがある」と見なされていたのです。しかし、施設運営者が会員維持、エンゲージメント向上、そして競争の激しい市場での差別化に直面する中、その古い定義は崩れ始めています。
この投稿では、人間パフォーマンス戦略の第一人者であり、エリートアスリート、リゾート、ヘルスファーストブランドの長年のアドバイザーであるマーク・コバックス博士が、ロイヤルティの未来は「アクセスや特典」ではなく、「心に響く体験」によって築かれると説きます。会員が繰り返し来館するのは、取引上の理由ではなく、感情的なつながりによるのです。
リカバリールームからパーソナライズされたテクノロジー、コミュニティ主導のワークアウトまで、コバックス博士は「新しいロイヤルティループ(New Loyalty Loop)」の柱を解説します。これは、パフォーマンスだけでなく、会員の「感じ方」に焦点を当てることで、会員維持を再定義するモデルです。
2025年にウェルネス施設を運営するなら、このマインドセットの変化は無視できません。
新しいロイヤルティループ:アクセスではなく体験がリピートを生む
マーク・コバックス博士(PhD、FACSM)
人間パフォーマンス戦略家、ウェルネス・長寿専門家
今日のウェルネス・フィットネス業界では、単なるアクセスだけでは不十分です。かつては施設設計、マシンの充実度、クラススケジュールが会員価値の基準でした。しかし2025年には、リピート来館の原動力は体験にシフトしています。ロイヤルティはもはや取引上のものではなく、感情によるものです。
これが「新しいロイヤルティループ」の登場です。体験重視のエコシステムは、従来型の会員モデルよりも、長期的な会員維持、満足度、推奨意欲を高めます。
私自身、20年以上にわたり人間パフォーマンスに注力し、ヘルスクラブ、ラグジュアリーリゾート、プロスポーツチーム、プライベートクラブ、長寿クリニックに関わってきました。その中で実感したのは、会員ロイヤルティはマシンやサービスだけでなく、会員が施設に足を踏み入れたときの「感情」によって大きく左右されるということです。人とのつながりや目的意識といった体験こそが、長期的なロイヤルティを生むのです。
ここからは、この新しいロイヤルティループを形成する要素と、施設がアクセス提供型から感情体験型へ進化する方法を見ていきましょう。
取引型から変革型へ
従来、ウェルネス施設は物理的アクセスで評価されました:面積、24時間入館、クラスの可用性、チェックインのスムーズさ。しかしその時代は終わりました。
今日の会員(特にミレニアル世代やZ世代)は、次のような体験を求めます:
- 利便性よりコミュニティ
- 収容力よりつながり
- 努力より体験
彼らは単に汗を流すだけでなく、所属感を求めています。施設が健康、ウェルネス、感情的な満足を一貫して提供できれば、会員は忠実であり続けるでしょう。
この変化は社会全体のトレンドとも一致しています。パンデミックを経て、人々は優先事項を見直し、ウェルネスはメンタルヘルス、社会的つながり、目的意識、長寿と深く結びつくようになりました。
この変化を理解し、提供価値を再設計するブランドが勝者となります。
新しいロイヤルティループを生む主要トレンド
1. ソーシャルフィットネスがロイヤルティを生む
グループフィットネスは選択肢ではなく戦略です。コミュニティワークアウト、ウォーク&トーク、チャレンジウィークなどを通じて、施設は共通のアイデンティティを持つ場になります。社会的に強化された行動は持続性を高め、友人関係が施設への深い感情的つながりに発展します。
ポイント: 会員が楽しみにする「アンカー体験」を月に1回設ける。量よりも意味のある、繰り返し体験できるイベントを意識。
2. テクノロジーはパーソナライズのために活用
最新の画面やアプリだけでは会員の心は動きません。重要なのは、自己認識やつながりを高めることです。正確で科学的に信頼できるデータを提供することが必須です。
ポイント: ウェアラブルとマシンの連動、AIコーチング、HRVデータなど、会員が「見られている」「理解されている」と感じる体験を提供。
3. 回復とリジェネレーションはプレミアム体験
リカバリールーム、レッドライトセラピー、コンプレッションブーツ、フロートタンクなどは、リピート来館を促す差別化要素です。回復は単なるオプションではなく、会員に「長期的な健康を大切にしている」と伝える手段です。
ポイント: 回復体験は義務ではなく、心地よく習慣化できる形で提供。
4. 施設 の枠を超えたライフスタイルプログラム
長期的ロイヤルティを築くには、施設外でもブランドを体験できる仕組みが必要です。オンデマンド教育、バーチャルチェックイン、習慣管理、旅行型のフィットネスイベントなど、日常にブランドを浸透させることで、会員は日々の選択で悩まずにすみます。
ポイント:ライフスタイルコーチング、ソーシャルイベント、旅行グループをプレミアム会員特典として組み込む。
なぜ体験型ロイヤルティが効果的か
従来のロイヤルティは割引や報酬に依存していました。しかし、楽しさ、所属感、感情的報酬といった内発的動機の方が、持続性が高いことが行動科学で示されています。
会員が施設を単なるジムではなく、
- 汗を流す場所
- 回復する場所
- 所属感を感じるコミュニティ
- 全体的な健康を大切にしてくれるブランド
と認識すれば、彼らは単なる会員ではなく「忠実な支持者」になります。忠実な支持者は離脱せず、施設の最良の広報担当者となるのです。
最後に:成果だけでなく感情をデザインする
パフォーマンス科学者として、私は人々がどのように動き、最大限の成果を得られるかを研究してきました。しかし、多くのリーダーと接する中で、長期的なパフォーマンス、ウェルネス、会員維持の鍵は「感情」にあることが明らかになりました。
2025年以降、優れたフロアプランや最新マシンを持つ施設ではなく、感情に寄り添った体験を設計できる施設が業界をリードします。これが未来のロイヤルティです。アクセスだけでなく、意味のある体験を設計することから始まります。
著者について
マーク・コバックス博士(PhD、FACSM)は、人間パフォーマンス経営者、ウェルネス・長寿専門家、スポーツ科学者、元プロアスリート。オリンピック選手、プロスポーツリーグ、企業ウェルネスの世界的パフォーマーとともに活動。Canyon Ranch、Gatorade、PepsiCo、Cleveland Cavaliers(NBA)、United States Tennis Associationなどで健康・パフォーマンス運営をリード。施設設計、長寿、ウェルネス、パフォーマンス最適化、回復の分野でグローバルにコンサルティング。